環境法をしっかり勉強したい企業担当者の方へ
北村喜宣『環境法(第5版)』
 (弘文堂・2020年9月・3,300円+税)


悩ましき環境法 

企業の環境対応業務に、法律知識は必須である。

しかし、環境コンサルタントとして様々な企業を訪問する筆者(安達)の印象では、多くの企業において、そうした知識を持つ担当者はとても少ない。
環境法を知らないまま担当者に任命され、途方に暮れつつ、死に物狂いで法律を読み込み、所轄行政とやり取りしている方もいるが、やはり付け焼刃の知識では、おぼつかない対応となってしまう。

環境コンサルタントが、研修やコンサルなどの場面で指摘するリスクの多くは、実は環境法規制に関わるリスクに関するものだ。
環境法を理解すれば、企業の環境リスクのかなりの部分を回避できると筆者は考えている。

もちろん、本当は、しっかりと環境法を勉強したいと感じている担当者は、多いと思う。自らの仕事に誠実に向き合い、自社の経営リスクを低減しようとしているわけで、それは素晴らしいことだとも思う。

環境法について体系的に詳述する本書は、そうした企業の環境担当者にとってもたいへん役立つものである。
しかも、見やすい図表やコラムなども多く掲載し、飽きることなく読み進めることができる珍しいテキストだと思う。

企業担当者に有益な本書
 
本書は、直接的には、法科大学院の環境法テキストとして執筆されている。
学生向けに環境法の勉強の仕方を提示しているが、例えば次のように、企業担当者にとっても有益な指摘が少なくない。

「環境法規制の基本形は、「①誰の、②どのような行為を、③どのような考え方にもとづいて、④どのような手法で規制するか、⑤違反・不服従に対してどのような手法で対応するか」である。」(xiページ)

本書では、この基本形を踏まえた上で、水質汚濁防止法や廃棄物処理法などの重要法を詳しく解説している。
法令を読むとき、漫然と読み進め、結果として規制のポイントを見逃してしまうことが少なくない。
本書によって「法の読み方」をしっかり押さえることができるはずだ。

また、本書の総論では、環境法の歴史などが取り上げられている。また、「共有地の悲劇」などのような環境問題を考える際の重要な考え方もコラムなどで取り上げられている。

これらは、環境法の実務を追う中で接する図書やウェブサイトではほとんど取り上げられない基礎知識である。これらを知ることは、環境法の全体像を整理することに役立ち、それは現在の実定法を理解することにも役立つはずである。

企業実務に役立つ

実は筆者も、環境コンサルタントとして駆け出しの頃、本書を何度も読み返したものだ。

兎にも角にも、環境法は範囲が広い。見当違いなアドバイスをしないように、仕事に慣れるまでは必ず本書を開き、確認してきた。
現在も時折、考え方を整理するために、ページをめくっている。

ちなみに、環境法は、司法試験の科目にもあるので、「環境法」というタイトルの図書は多い。
しかし、おそらく企業担当者の皆さんが他の環境法の図書を読み進めるのは、なかなかシンドイかもしれない。
遠い世界の話をしているように受け取るのではないだろうか。

この点、本書の場合、フィールドワークを精力的にこなす著者だけに、企業関係者との接点も多く、その視点も加味されているので、企業実務から見て参考になる記述が至る所にある。

例えば、環境法では努力義務規定(訓示規定)がゲンナリするほど頻出し、どこまで対応してよいか悩む企業担当者が少なくない。
本書では、努力義務規定と義務規定の違いについて論ずる箇所もある(150ページ)。

自らの知識不足のために、所轄行政とのやりとりの際に、劣勢に回る担当者も少なくないと聞く。
一歩踏み込んで環境法を勉強し、実務にも役立てたいと思う方には、本書がよいと思う。

法務部にもお勧め

環境部門の方々だけでなく、法務や総務部門の方々にも本書は有益なものになるだろう。

これら部門の方々は、もちろん法務に精通されているのだが、どちらかというと、私法や訴訟関係が専門だ。環境法を含む実定法の運用に詳しい方は少ないと思う。

例えば、産業廃棄物の処理委託の際の契約書締結業務に法務部門が関わり、同法の委託基準に違反する行為を何度見かけてきたことだろう。
同法の排出事業者責任への知識不足が招いたことである。

廃棄物処理法の事例をもう一つ上げると、企業実務では「廃棄物該当性」の問題がしばしば顕在化する。例えば、これまで「廃油」として廃棄物処理していたものを他社に無料で引き渡す場合、それは「廃棄物」なのか否かといった問題のことだ。
これに対しても、環境部門から照会され、的を射た回答をする法務担当者が果たしてどれだけいるのだろうか。

この点について、本書では、廃棄物処理法における廃棄物の定義を紹介した後、チャートなどを示しながらわかりやすく解説している。さらには、政府解釈や判例(有名な最高裁の「おから決定」など)も詳しく紹介している。廃棄物か否かを考える際に悩ましい輸送費や有償性についても丁寧に論述しており、実務における具体的な対応方法を検討するときにプラスになる記述が満載なのである。

さらに法を知っている法務部門の方々だからこそ、本書によって実定法の現状と今後の展望をより深く理解できるだけでなく、いままでと異なる法の世界も知り、スリリングな体験ができるに違いない。

 (安達宏之・洛思社 代表取締役)
 

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